【ひとり宇宙開発】ロケット発射場として最適な条件?立地の良し悪しと評価する方法 – 北海道ではどこ

ひとり宇宙開発

一般にロケット発射場を備えた空港のような施設をスペースポート(宇宙港)と呼びます。

スーパーマーケットの立地戦略などと同じく、最適な場所にスペースポートを構築することは
ロケット運行プログラムを成功させるために極めて重要な要素です。

現在スペースポートのサイト構築に関してどういった基準が設けられているのかといえば、
技術的要件や社会的条件も合わせたパフォーマンスも一部は考慮されていますが、
現在のところ ほぼ「コスト」重視 だそうです。

どこに作るか?という最初の問題

他国の宇宙戦略が必ずしも北海道の宇宙戦略と合致するとは限りません。

それは地理的条件に加え、資源やポリシー、国家体制などが違うためです。

コストの面で見てみると、北海道は赤道から遠いため、
ロケットを飛ばす際の燃料コストは赤道直下の国や大分県よりも少し多くかかると思われます。

反面、寒いという利点を生かして、
精密機械やコンピューターの稼働に関する熱問題には向いているという側面もあります。

こうした単純な側面からでもわかるように、「自社に合った」そして
「北海道に合った」運用戦略のようなことを早い段階から想定しても良さそうです。

とにもかくにも、責任とサービスを最大化するために、
距離、時間、コスト、セキュリティ、必要な施設の数を最小限に抑えるような場所選びが、
スペースポートを成功させるための最初のカギになってきます。

スペースポートに必須なモジュール施設

飛行場にターミナルや管制塔があるように、
スペースポートの技術運用にも最低限12個のモジュール施設が必要だと考えられます。

  • ペイロード / 貨物処理
  • 交通 / 飛行制御
  • 発射
  • 着陸 / 復帰
  • 車両の方向転換
  • 車両の組み立て / 統合
  • 車両基地のメンテナンス
  • スペースポートのサポートインフラ
  • 独自の物流 ロジスティクス
  • 交通システムの運用計画と管理
  • 消耗品
  • コミュニティインフラ

この辺りを参考に参入する分野を絞っても良さそうです。

場所に関して必要な要件の考察

では実際に「どういった場所」に建設すればいいのか。
運用ポリシーに関わらず大まかな一般論として

  1. 赤道近く
  2. 安全なエリア
  3. 他のニーズと結びつく
  4. 数種類の発射方位角が使用可能

1.に関して:
先ほども述べたように、赤道に近いほど、地球の自転速度を最大に利用した発射ができるので、ロケットの性能を最適化し、より少ない燃料とより多くの貨物量で軌道に到達するために考慮しなければならない要件の一つです。

2.に関して:
生命、公共施設、および他国との関係を危険に晒すことがないように注意。
物理的には人口密度の低い場所、海沿い、砂漠などが万が一の不時着に備えて望ましい場所と言えるので、北海道は日本の中では安全な場所にあると言えます。ただ、原発などの兼ね合いや、場合によっては政治的な安全性も考慮する必要があります。

3.に関して:
例えば軍が強い力を持っている国にとっては、軍部が管理がしやすい場所にあることが望ましい場合もあります。商業的に見た場合には輸送管理が必要で、流通の際には空港や海上貿易の拠点に接続しやすいほうが良いでしょう。

4.に関して:
ロケットや衛星にはいろいろな目的があり、それぞれに適した軌道があります。
北極と南極上空を回る軌道「極軌道」にのせる際には、南に向けてロケットを打ち上げる必要があるので、可能な限り色んな方向に発射できるニーズに対応したほうが良いと思われます。

商業的運用の成功因子

商業的な運用にフォーカスした場合、成功の鍵になりそうな因子を列挙してみます。

コスト、インフラ、ロジスティクス、管制監視、軌道の種類、開発戦略、支援施設、運用設計、環境、観光、サプライチェーン、航空交通、安全設計、産業発展、気象学、災害や落雷の可能性、などなど

最終的に、こういった多くの基準を考慮しながら場所を選択する必要があります。
成功の可否にも関わる問題なので総合的で慎重な検討が必要です。

ひとつ意思決定の参考になるのは以下の方法です。

階層分析法 (AHP) で評価してみる

よく用いられる方法の一つに階層分析法 (AHP)があります 。

多基準決定分析 | Multi-Criteria Decision Making (MCDM) という意思決定を支援する分野の一つで、
簡単に言えば基準の重み付けに焦点を当たやり方。

現実世界ではヘルスケア業界、航空業界、製造業界など、いくつかの分野でも応用されています。

まず評価項目を「北海道のスペースポートの場所」とし、以下のような基準を設定。

  1. 運行・技術
  2. 安全性
  3. 経済
  4. 気象学
  5. 環境

これらの基準に重みづけしてスコアを算出するのが目的です。
各基準を比較する際に「重要さの比率」に応じて1~9の数字でラベリングします。

例えばの「経済」方が「技術・運行」よりも6倍重要だとした場合、
「経済」行の「技術・運行」列を6にします。

逆に「技術・運行」行の「経済」列が1/6となり埋まります。対角要素は1です。

今回はテストなので適当な評価で値を入れています。

技術・運行安全性経済気象環境
技術・運行11/41/61/41/8
安全性411/331/7
経済63141/2
気象41/31/411/7
環境87271

この行列の最大固有値に対する固有ベクトルをスコアとして用います。

$$\left(\begin{array}{rrrrr} 1 & 1/4 & 1/6 & 1/4 & 1/8\\ 4 & 1 & 1/3 & 3 & 1/7\\ 6 & 3 & 1 & 4 & 1/2\\ 4 & 1/3 & 1/4 & 1 & 1/7\\ 8 & 7 & 2 & 7 & 1\\ \end{array}\right)$$

重要度
技術・運行0.036
安全性0.122
経済0.262
気象0.075
環境0.506

http://www.isc.senshu-u.ac.jp/~thc0456/AHP/AHPweb.html
専修大学様のHPで簡単に計算できます。

このようにして各基準にぶら下がってる「サブ基準」も重みづけします。

技術・運行のサブ基準の評価ロケット軌道発射台重要度
ロケット11/31/60.091
軌道タイプ311/40.218
発射台6410.691
運行・技術に関するサブ基準の優先度

色んな要素をクロスで評価させたり、
最終的に候補地として用意した「十勝」などの地域の比較評価に用います。

「技術・運行」という観点から見た「候補地」のマトリックス

技術&ロケッ十勝空知渡島宗谷重要度
十勝14360.555
空知1/41350.258
渡島1/31/3120.124
宗谷1/61/51/210.064
技術・運行 ⇒ ロケットに関して各地域の評価
技術&発射台十勝空知渡島宗谷重要度
十勝1abcxxx
空知d1efyyy
渡島gh1izzz
宗谷jkl1aaa
技術・運行 ⇒ 発射台に関して各地域の評価

いろんな感じで最終的に完成

トータル基準の重要度
====
基準
技術・運行 0.036
====
ロケット 0.091
技術・運行 0.036
====
発射台 0.218
・・・経済 0.262
====
輸送 0.258
・・・全体的な重要度
十勝0.6190.3100.555xxx0.0320.193
⇐の総和
空知0.3640.1820.258yyy0.5910.333
⇐の総和
渡島0.5050.2530.124zzz0.2740.214
⇐の総和
宗谷0.5090.2550.064aaa0.0830.262
⇐の総和

今回の場合は「空知」がそれっぽい候補地と言えます。(今回の結果は適当です。)

ただし、この方法の注意としては基準選びと重み付けの過程で専門家の意見を使用する点です。

1~9という数字の選び方が非常に恣意的なので、
この辺りは専門家や文献を参考にして選ぶ必要があり、かなり慎重に設定する必要があります。

(あまりにも整合性がない設定だと C.I.と呼ばれる値が大きくなる(0.1以下が望ましい) def. C.I. \(=\frac{\lambda_{max}-n}{n-1}\))

それぞれのポリシーもまた基準選びに反映されます。
完全に商業目線であれば、別の基準で評価する場合もありますし、重みづけも変わってきます。
また軍事利用であれば違った重みづけになる場合もあります。

もしかすると安全性の問題がテクノロジーによって軽減された「宇宙開発の後期段階」では安全性に関する重要度は「初期よりも」低くなっているかもしれません。

本質的かつ重要な基準をうまく見抜かなければなりません。がそれに関しては教えてくれません。

自分たちのポリシーと照らし合わせてどこが最良なのかという結果を教えてくれるだけで、普遍的な正解を導くことはありません。が、まぁまぁよく利用されている方法です。

現実的な結果を得るためには

実は上で挙げた「基準」はインドネシアにおけるスペースポート候補地の研究で実際に使用されたものです。インドネシアは赤道直下で14000以上の島を持ち、共和制で90%がイスラム教徒の国家。

  1. 技術・運行
  2. 安全性
  3. 経済
  4. 気象学
  5. 環境

12のサブ基準も専門家に対してインタビューを行い上記のものを得たそうです。
代替候補地も4つ用意されました。

結果を要約しつつ引用すると、基準とサブ基準の重要度は以下になったそうです。

技術・運行 0.239

  • ロケット 0.427
  • 軌道の種類 0.378
  • 発射台 0.195

経済 0.047

  • 交通費 0.363
  • マーケット 0.128
  • インフラ 0.509

安全 0.438

  • 人口密度 0.634
  • 飛行軌跡 0.366

気象学 0.118

  • 天気 0.483
  • 潜在的な災害 0.517

環境 0.158

  • 地理的位置 0.818
  • 観光産業 0.182

安全性の基準 0.438 >> その他の基準 という傾向がみられ、
安全性に関して高い関心がある模様です。

また、技術および運用上の基準 0.236 > 経済 気象 環境 という傾向も見て取れます。

サブ基準のランキングも出ていました。

1 安全性 ⇒ 人口密度 0.277
2 安全性 ⇒ 飛行軌道 0.160
3 環境 ⇒ 地理的位置 0.130
4 技術運用 ⇒ ロケット 0.102
5 技術運用 ⇒ 軌道の種類 0.061
6 気象 ⇒ 潜在的な災害 0.061
7 気象 ⇒ 天気 0.057
8 技術運用 ⇒ 発射台 0.047
9 環境 ⇒ 観光産業 0.029
10 経済 ⇒ インフラ 0.024
11 経済 ⇒ 輸送 0.017
12 経済 ⇒ 市場 0.006

安全性の中でも人口密度の低さを優先するという結果を最優先する傾向が見て取れます。

人口は2.7億人で世界第四位、面積は日本の5倍なので、
安全に関心があるならば当然、人口密度の低い場所がよいはず。

その次に重要な基準として再び安全性に関する「飛行軌道」の管理・管制が上がっています。

経済的基準にはほとんど焦点が当たっていませんが、専門家の意見を参考にしているからです。

先ほども述べたように、市場のプレイヤーの意見を参考にすれば違った重要度になるはずですが、
宇宙産業は「初期」と「後期」のフェーズに分けて考えられており、
一般に観光業などの商業的な運用は後期に属すると言われているためです。

輸送とインフラは経済的基準に含まれており、
建設コストや整備コストなどが考えられますが、
重要度を見る限り現時点で最優先の課題ではないといったところでしょうか。

などなど、色々読み取ることができます。なお候補地としてはビアクという地が有力だった模様。

これらの結果を参考にする際は、安易に結論付ける前に、あくまでも提案だと受け止めつつ、
基準と候補地の関係をより注意深く観察していくことが大切でしょう。

北海道では?

インドネシアの例を参考に、
現時点で安全面を最重要に考えるのは、割と正しいように思われます。

だとすると北海道という土地は人口密度も低く宇宙産業に最適の場所ともいえます。
問題はその中からどこを選ぶか。

さらなる安全性の面では、万が一の状況で海や砂漠に落とせる場所が理想的。
(北海道で砂漠はあまり一般的ではありません。)

十勝、オホーツク、釧路、根室、函館など自転方向に海が広がっている地域が望ましく、
また南に向けて衛星を飛ばす場合などの発射角も多く選べる方が良さそう。
ただ、あまり海域に近いと政治的リスクが発生する場合もあります。

商業的な面を考えると空輸や海輸しやすい場所が理想的。

釧路空港、中標津空港、女満別空港、稚内空港、帯広空港、旭川空港、函館空港
あたりを見つつ、海上輸送もあるとすれば釧路もかなり良いように思います。

一方で、気象により地震や津波などの災害リスクのある場所は避けたいところ。
道南の沿岸部は津波のリスクがあります。オホーツク海側は比較的津波リスクが少ない地域で、
女満別空港も近くにあり良さそうですが、やはり東側がかなりのリスクです。
少し北上した紋別~稚内などは大丈夫かもしれません。

環境的には、コストの関係含めて赤道に近づけたいところ。

あまり北すぎない方が理想的ですが、そもそも北なのであまり贅沢言わずに妥協するポイントかもしれません。(今度コストの試算もしてみます。)また機体の劣化が進みそうな気候であれば避けたいところです。

技術・運行に関しては、やはり関連するハイテク施設が近くにあったほうがベスト。

各種メンテナンスや、実験場として活用することで周辺技術を発達させていくことも不可欠です。

実際アメリカのスペースポートはシリコンバレーのすぐ隣のニューメキシコ州シエラ郡にあります。

陸軍のミサイル試験場も近くに存在。

ある程度テクノロジーの発達した地域を想定するならやはり札幌・千歳・恵庭・北広島などの都市近郊が理想的ですが、これら地域では安全性の確保が最重要課題になると思われます。

よく話題に上がるのが十勝の大樹町です。

大樹町はホリエモンの会社がロケットを製造しているので有名ですが、
じつはすでに「北海道スペースポート」の企画運営をする SPACE COTAN株式会社 が、北海道に宇宙産業を集積させた、宇宙版シリコンバレーをつくるのを目指す中で、大樹町に「北海道スペースポート(HOSPO)」と人工衛星用ロケット発射場「Launch Complex-1(LC-1)」の滑走路延伸整備を2022年9月から着工しています。

すでに動き出したプロジェクトを頼って十勝の周りに集積していくと思われます。

ただアメリカの流れとは違い、技術ありきと言うよりかはスペースポートありきの出発なので、
今後、十勝にハイテク産業がどんどん進出していくことがカギになるでしょう。逆にテクノロジー関連会社の視点で見れば十勝に拠点を置くのが今後の北海道を見据えた戦略ともいえるかもしれません。

そんなわけで最適な場所はどこか?という事でしたが十勝で1つ確定しています。
今回のように、検討してもやはり良さげな場所でしたね。

ですが宇宙産業は黎明期なのでこれからも発展していきます。
今まで見たようにどういった観点で運用するかで最適な場所も決まってきます。

北海道は日本の中でも広い土地を有しており、宇宙産業が発達していくキャンバスとしては最高です。
当然、他にもスペースポートがあっても良いと思っています。

「地球一周、宇宙空間に小旅行」

など専用のミッションをもったロケット発射場が設置されることも想像できますし、
技術革新で色々障壁が減るかもしれません。

その辺はあとからまた考えることにして、
とりあえずロケットが飛ばせる場所をたくさん増やしてみても良いのではないかと思っています。

このように十勝に限らず北海道の各地で宇宙ミッションを検討するための枠組みの一つとして、
「場所選びに関する話題」をお伝えできたと思えば幸いです。

北海道を宇宙の街へ!ぜひいっしょに実現しましょう。